まるきゅー＾＾
ムラユです。

「じゃあ帰るね、もう暗くなってくるし」
日の長くなった眞魔国も夕飯の時刻になるとゆっくりと太陽が傾きだす。明るい内に眞王廟に帰らないと、いくら城内とは言え夜道は危険が増すから、心配をかけないためにも僕は本に栞を挟んだ。
「夕飯食べていかないの？」
通された魔王様の部屋のソファで書庫の本を読んでいたらいつの間にか時間が過ぎていた。
本の数分前にやっと今日の執務を終えて帰ってきた渋谷は、些か不満気な様子だ。
「うん、今日は大丈夫。また今度お邪魔するよ」
この本、置いていっていいかな？と聞くと渋谷は口を尖らせながらいいけど、と呟いた。今のセリフ、結構勇気出して言ったんだけどなぁ。
「なぁ村田、お前普段何してるの？」
「んー…掃除とか、修繕とか、ちょこっと修業とか」
「修業？」
「巫女さん達に守られてるのもアレだからね、ちょっと剣の扱いも覚えようかと」
「へー…」
全く。顔いっぱいに不満を出しながらそんな、何度も答えた質問なんかしちゃってさ。
その度に可愛いな、って思う自分も毎度の事だなって気はしているけど。
「しーぶや、ごめんね？」
これは僕の意地悪な部分。ごめんねなんて言えば、プライドを刺激する事になるって解ってる。
でもだからって脳内ではこうしたいああしたいって思ってる事がスマートに出来ないのは解ってほしい。
例えば、ぎゅっと後ろから抱きついて頬にキスをするとか。
耳元で愛してるから機嫌直して、なんて囁いてみるとか。
そういう事は、どこかの男前がするべきことだ。勿論、渋谷にだけはさせないけどね。
案の定、気まずそうにむくれた目が僕をじっと見てくる。
「…お前のそーいうトコ、むかつく」
「…それ、本心？」
「ばか！」
怒らせるって解ってるのに、つい言ってしまう。そして、その後に後悔させたり、自己嫌悪にさせるのも。
でも渋谷、きみを甘やかす事だけがいいってわけじゃないって解るだろ？
―なんて、本当は自分自身に言ってるんだけどね。
「村田はさ…いっつも、そうやって…。…くそっ、別に、ケンカしたいわけじゃないんだ」
「…うん」
「むかつくっていうの、村田の事否定してじゃない、でもさ。ずりぃ。だってお前おれの性格とか解ってるくせにそういう事言ってさ」
「！ちょ、渋谷…」
うわ、なんだよ渋谷、何で泣くんだよ！
僕そんなに、渋谷泣かせるような事言った？
「しぶや…なんで、」
「ばか！ばかっ、ばか！」
最初に折れたのは渋谷の方だった。この絶妙な距離感を埋めるための一歩が踏み出せない僕に対して、歯を食いしばりながら突っ込んできた渋谷にあっけなく僕は足元をすくわれ―ドスン！運よくあったベッドに押し倒されていた。
「なんだよ、村田のばか、おれ、ばっかり、かよ」
くそ、こんなこと言いたくなかったのに、なかったのに！と、その後の呟きはすすり泣く声と一緒に耳元で響いた。
僕は驚きが90％を占めていて、もうただ、渋谷がまさか泣くなんて思ってなかったからびっくりして、押し倒された事もぎゅっと抱きしめられてる事も、何となく部屋のドアが一瞬開いた気がしたのにも意識を向ける事が出来ずにいた。
「ずりぃ、ずりぃよ村田。なんでそんな大人なんだよ」
「…渋谷」
「おれだけ、おればっか、さみしいって気持ちがいっぱいで、なんだよ。苦しい…」
なんだってこの魔王様は僕の気も知らないでこんな事言うんだろう。そんなの、僕が感じないとでも思っているの？
「…僕だって、さみしいよ。渋谷と一緒にいたいよ？」
「でも、今日だって帰るんだろ？」
「明日だって会えるじゃないか」
「でも、今日は帰したくないって日が、おれにだってあるって、知らないだろ？」
「……うん」
「……ばか、そんな驚いた顔、しやがって」






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だらだらと長くなったのでここで切りました・笑
別に受けをおんなのこ思考にしなくてもいいって思ってはいるけど、うっかりいつもこうなってしまう。